先日、霧島の森へ野生の鹿を撮影するために出かけてきました。
最近では山を歩いて鹿を見つけることは難しいことではなく、容易に出会うことができる野生動物となった野生の鹿。人がよく歩くコースで出会う鹿は人に慣れているのか、警戒の声をあげることもなく静かに飯を食っております。
それを驚かさないように静かに登山道からカメラを構え、鹿が近づいて僕に気づいた後に、見つめ合っている鹿の表情がトップのイメージに使用した写真ですが、口から食事中の草がはみ出ており、なんとも言えぬ表情と無垢な目が可愛いものです。
そんな鹿ですが、今では山や山間部では”やっかいもの”として、山や農作物を荒らしてしまう存在として問題にもなっており、僕が山間部でお世話になっている方も丹精込めて育てた野菜が食べられてしまったと嘆きながら「あんたたちも懸命に生きてるんだから、仕方ないけどねぇ」と笑って話されていた顔を今でもよく覚えています。
鹿避けネット
今では山間部に出かければ、田畑は鹿や猪対策のためのネットで囲われ、登山道を歩いていてもネットで鹿の食害から植物を保護している箇所が目立つように。
上の写真は傾山の登山道に張られたネットですが、至る所でこうした鹿対策のためのネットを見ながら歩くようになり、ネットの内側・外側で鹿による食害被害の検証を行なわれている山も多く存在します。
実際にそうした場所ではネットの内側で植物が育っていたりする訳で、鹿の食害による被害が存在することは初めて見る方でも分かるほど。中には希少植物が食べられることで絶滅の危機に瀕しているものもあり、山間部でお世話になっている方々の被害を知る反面「鹿も懸命に生きている」と思うと、いつも複雑な気持ちになります。
鹿の増加によって変わったこと
市街地で生活をしていると鹿の被害を目の当たりにすることは多くありませんが、山間部では畑の被害なども含めて深刻な問題のひとつ。そして僕らが歩いて楽しむ山や山間部でも鹿が増えたことが要因とされる変化が色々と起きています。
※Evidenceがなく様々な方が仰る問題も含まれます。
ヤマビルの増加や生息域の拡大
最近宮崎県の山間部ではヤマビルの生息域が非常に拡大しています。山を歩いて楽しむ方にはヤマビルが苦手で、ヤマビルが居るというだけで、その場所を避ける方が多くいらっしゃいますが、そんなヤマビルも以前は居なかった場所へも徐々に生息域を拡大しています。
ここではヤマビルの居る山・居ない山については省略しますが、このままではヤマビルの季節になるとみんな宮崎県外の山に出かけたり、ヤマビルの居ない山に集中するんだろうなと思うほど。
そんなヤマビルは鹿に付着し、鹿が増えて広がると共に生息域を拡大しているとよく伺います。(その他にも要因はあると思いますが、一例として)
鹿とヤマビルの関係性についてのEvidenceまでは僕は知りませんが、ヤマビルの生息域は確かに拡大し、それを嫌ってヤマビルの居ない山域に出かける方や、ヤマビルの季節に山に行きたくないという方は事実として増えており、美しい景観や植物があるにもかかわらず「ヤマビルが居るから…」と人が出かけなくなってしまうのは、ヤマビルの増えた山の麓に暮らし事業を営む方にとっては好ましいことではありません。もっと言えば山に出かけて楽しもうという僕らの仕事にも全く好ましいことではありません…
マダニの増加
個人的にはヤマビルへの耐性はありますが(慣れという点において)、マダニはめちゃくちゃ嫌いです。とは言え過去に何度かはマダニに血を吸われ、肌にくっついていたこともありますが、僕はヤマビルは慣れてもマダニは…
マダニの増加については林業に従事される方や、山で仕事を行う方から伺ったのですが、確かにマダニはよく見かけるようになりました。お蔭で僕はショートパンツで山に居るのが苦手になったほどです。
特にウイルスを保有するマダニに咬まれることにより発症するSFTSなどは非常に深刻で、僕は知人が感染してしまいエライ目にあっていました。(こういう観点からも山で素肌を出すことは昔から推奨されていないのです)
山のダメージや災害
鹿は縄張りを持たず、植物を求め数十キロの移動をすると言われています。そして適応力が高く無毒の植物を幅広く食べます。さらに一頭あたり1日3-5kgの植物を食べるとされ、山や森の植生が偏り痩せてしまい、痩せた山は保水力が落ちてしまうことで土砂崩れ・洪水・水源の枯渇などが発生してしまいます。
ごく簡単に言うと、鹿が様々な植物を食べて新芽や下草も食べてしまう → そうすることで山が渇いてしまい木々も枯れやすくなる → そこに大雨などが発生すると崩れやすくなる。という流れですが、近年の異常気象でさらに山が崩れやすくなっていると感じているベテランの方も少なくありません。
その他にも繁殖期に備えた雄鹿の角研ぎや樹皮を食べてしまうことによる樹木の枯れも、多くの場所で見受けられます。
鹿が増えてしまう要因
これまで鹿の話だけでも様々な方に話を伺ってきましたが、鹿が増えた要因として以下のようななことを伺います。
- 猟師の減少:過疎化、高齢化により猟師(狩猟従事者)が激減してしまった
- 捕獲規制緩和の遅れ:1948年から2007年までの間、メスの鹿は禁猟となっていた
- 拡大造林:戦後の拡大造林の影響で伐採地に餌となる草が増加
- 中山間地域の過疎化:耕作放棄地が拡大したことにより草地が増えた
- 温暖化:降雪地が減少したことにより生息域が拡大した
- 繁殖力が高い:1年間で20%前後以上の繁殖力があると言われています
- 捕食者の絶滅:天敵であるニホンオオカミが絶滅したことにより天敵が居ない
- 野良犬がいなくなった:野良犬がいなくなったことで人里まで降りてきやすくなった
正しくは十分に解明されていないようですが、様々な方の話を伺う中では複数の要因が重なって起きていることなんだろうと個人的には感じます。
専門家の方にお伺いした話では、一時期はオオカミを海外から連れてきて離そうという話もあがったことがあるとのことで、本当に様々な意見・見解などが存在するように感じることもあります。
鹿が増えることによって増えてしまう生き物
鹿が増えたことにより増えた代表的なものは、鹿が食べないものと言われ、アセビやバイケイソウなど毒のある植物が増えているのを実感される方も多いと思います。
また霧島山系などで人気なミヤマキリシマなども毒のある植物で鹿が食べない植物です。
また糞を食べる昆虫も頻繁に見られるようになり、オオセンチコガネを山で見かける方も多いと思います。
鹿の増加が顕著に見られる期間であるがゆえに、山を歩いていても様々な変化を実感することがあります。
森の変化
こうして鹿の問題を様々な方に伺うたびに、僕はお世話になっている方の「あんたたちも懸命に生きてるんだから、仕方ないけどねぇ」という言葉を思い出します。実際に農作物などが被害に遭う方も多い中で「可愛い」とは、どこか言いづらい感もあるのですが、やはり自然の中で生きる動物はどこか美しさを感じてしまいます。
僕がお世話になっている森林保全を行う方々も、鹿の食害から美しい森を守ろうと原生林に鹿避けのネットを張り美しい森を守るための活動を行なわれていますが、誰もが「決して鹿が悪い訳ではない」と口を揃えて話してくださいます。
上の写真は鹿避けネットで保護している森の様子ですが、下草の量の違いが分かりやすいと思います。(画像提供:フォレストマントル上鹿川)
先日スタッフと野生の鹿の撮影に出かけた際も、やはり「君たちが悪い訳ではないのにねぇ」と、僕らも感じてしまいます。懸命に生きる鹿、懸命に森を守る方、そして変化していく森の姿と、僕らは山を歩きながら様々な光景を見ますが、高齢化により徐々に活動ができなくなった地域などにも少しずつ新しい方法を模索して森を守ろうという動きが生まれて来ているように感じます。
そんな様々な変化や風景、そして携わる方々とお会いしながら森を見て歩くことも、また違った角度から森を眺めることができて非常に興味深いもので、僕が敬愛する森の保全活動を行なわれる方はいつも「楽しんでいらっしゃい」と明るい声で山へと送り出してくれるのです。
山や山間部の自然は、たくさんの方の想いや活動が本当に見えるものだといつも実感します。
引き続きそんな物語も含めて、皆様と自然を楽しめたなら嬉しく思います。
僕自身が森のことを様々な方に聞きに行こうと思ったきっかけになったのも鹿が要因のひとつ。
その話はまた更新させていただきます。
結論のない話で大変恐縮でございました…汗
森を歩いて楽しむ際は、少しそんな変化を考えながら歩くと、また見えなかった森の姿が見えるかもしれません。
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